ボディーショップ・オギでの旧車の事例をご紹介するページ、今回は【マツダ キャロル360】です。
入手困難部品が必要な旧車修理も、諦めないでください
マツダの初代KPDA型キャロルは1962年(昭和37年)製造開始の小型乗用車です。リアウインドウ部分を逆スラントに立てた「クリフカット」が特徴的で、当時は日本離れした斬新なデザインだと話題でした。
さて、今回積載車でお持ち込み頂いた車両ですが、当店へは車検のご依頼でした。隣県とはいえ、縦に長く山とトンネルだらけの長野県内を縦断しなければならないので、静岡からお持ちいただくのは大変なことと思います。ありがとうございます。
はるばる車検の為に長野県まで来られることにされたのには事情があるそうです。
当初はディーラーさんへ車検を依頼され車両を預けたものの、いつまでたっても車検通りましたと連絡が来ず…様子を見に行ってみたら敷地の端の方に置いたままにされていた…約2年。ディーラーでの車検といえど、修理に使う交換部品が製造停止されていると入手が難しく、こういったことが起こってしまうようですね。
このままではどうにもならない…と、お手元に車両を回収し、ネットで見つけたバナナオートの旧車部品サイトをご覧になり依頼することに決めたそうです。
当店入庫後改めて現物の車両の状態を拝見させて頂きました。やはり入手不可の部品がダメになっていたり、電気系統に改修が必要だったりと、通常の修理工場では対応が難しいと断られてしまう理由となる修理箇所がいくつも見られました。お客様にお見積りなどご相談の上、車検を通すにあたって必要な修理を行う運びとなりました。
ウォーターポンプの水漏れ・破損
まず、キャロルで確認したいのがウォーターポンプです。
経年のサビや腐食で水漏れしていました。
水漏れがある状態だとエンジンに冷却水を循環させることが出来ず、オーバーヒートを起こしてしまいます。そのままエンジンをかけては危険です。しかし、それだけの問題ではありません。
写真は車体から取り外したばかりの状態ですが、灰色の輪っかになっている部分がありますね。これは本来は輪っかではなく、シャフトを通す用のパイプです。腐食による劣化で、取り外しただけで折れてしまったのでした。悲しいことに、これはもう…どうにもなりません…。
交換しかないのですが、ここで早速交換部品が手に入らない難問が発生します。おそらくこの段階で、修理をお断りされてしまうパターンが多い印象です(これはキャロルなど旧車に限ってことではなく、例えばこちらのヤンマーのトラクターの記事でも同様の事態が起こっています)。
こうした部品が入手不可の場合、バナナオートは修理を諦めるのではなく加工代用品を製作します。つまり、作ってしまいます。ウォーターポンプもアルミの塊を削り出し、純正と同様の働きを持つ代用部品を作ります。
新規製作したウォーターポンプ(写真下)と、純正のもの(写真上)↓
見た目は全然似ていない…どころか同じ部品に見えませんね。でもご安心ください。大事なのはネジ穴や、凸凹など取付部分の形状です。このように、無事に取付可能です。
こちらのウォーターポンプをはじめ、使用した交換部品(製作加工代用品含)をBodyShop-OGIにて販売中ですのでご紹介します。
旧車部品各種取り揃え。当店では取付も承ります。こちらはマツダキャロル360のウォーターポンプ交換ユニットの販売ページです…
旧車部品各種取り揃え。当店では取付も承ります。こちらはマツダキャロル360のウォーターポンプシール&ベアリング2個セット…
腐食したブレーキ・足回りのオーバーホール
続いてオイル漏れを起こしていたブレーキマスターシリンダーとホイルシリンダーをオーバーホールします。
古いホイルシリンダーは腐食が進行しており、一つの塊と化してしまっていました。右の写真の手前に写っているタンク状のものが、製作代用品の交換用ホイルシリンダーです。
旧車部品各種取り揃え。当店では取付も承ります。こちらはマツダキャロル360のブレーキマスターシリンダー用O/Hキットの…
旧車部品各種取り揃え。当店では取付も承ります。こちらはマツダキャロル360のリヤブレーキホイルシリンダーの販売ページです…
旧車部品各種取り揃え。当店では取付も承ります。こちらはマツダキャロル360のフロントブレーキライニングの販売ページです…
旧車部品各種取り揃え。当店では取付も承ります。こちらはマツダキャロル360のクラッチマスターシリンダーの販売ページです。…
旧車部品各種取り揃え。当店では取付も承ります。こちらはマツダキャロル360のリヤホイルシリンダーカップキットの販売ページ…
旧車部品各種取り揃え。当店では取付も承ります。こちらはマツダキャロル360のクラッチレリーズシリンダーの販売ページです。…
旧車部品各種取り揃え。当店では取付も承ります。こちらはマツダキャロル360のステアリングギヤボックスのタイロットエンドの…
ポイント式点火のディストリビュータをセミトランジスタ化
大きく変更になったのがディストリビュータです。ガソリンエンジン車で重要な点火を制御するディストリビュータには、いくつか方式があります。
キャロル360の点火機構には、登場した当時主流だった「ポイント式」が採用されています。しかしポイント式は徐々に搭載する車が減り、代わりにフルトランジスタ式(フルトラ)やセミトランジスタ式(セミトラ)に移行していきました。
■ポイント式点火装置(機械制御式点火装置)
そもそもポイント式点火とは、ディストリビューター内周に配置された気筒数分(四気筒なら4つ)の電気接点(コンタクトポイント)と、カムシャフトと共に回転する側の電気接点(コンタクトポイント)が瞬間的・断続的に接することで、イグニッションコイルからの電流が各気筒に流れバチッと火花が飛び点火する方式です。
このバチッの瞬間接点に流れるのは高圧電流ですから、コンタクトポイントへの負担が増大し、熱や摩擦による早期の劣化や点火時期のズレ・電気的な効率の悪さなどが目立ち、だんだんと姿を消していきました。
■セミトランジスタ式
そしてポイント式点火の問題点を改良して主流となったのがセミトランジスタ式です。ポイント式ではどうしてもコンタクトポイントの摩耗や焼損は避けられず、頻回なメンテナンスを必要としました。セミトランジスタ方式ではポイントに微弱な電気を流すことで電圧を制御し、スイッチ化したのです。
ポイント式がレコードだとすれば、セミトラはカセットテープに似ています。毎回ポイントに大電流を流す必要がなくなり、従来の10分の1以下の低電力でスイッチ制御が可能になったことで、摩耗・焼損などのダメージが大幅に減少、メンテナンス回数も好きなくて済むより信頼性の高い機構とされました。
■フルトランジスタ式
そんなセミトラですが、焼損は抑えられても物理的な接触によりポイント面が摩耗する問題の完全な解決には至りませんでした。その為フルトラ式では、ポイント自体を用いずトランジスターなどで電圧を制御し点火させる機構に刷新し、ディストリビュータの点火方式としては最も信頼性の高いものとなりました。
ちなみに…ディストリビュータ自体は平成10年くらいから後は採用されなくなってきました。現行車はダイレクト・イグニッションと呼ばれる点火方式が一般的です。ディストリビュータより高価な点火機構となりますが、電力ロスの減少や電極の劣化などの問題から脱却した、より高効率で安心な機構です。
今回のキャロル360はポイント式から、セミトラ式へと変更しました。一足飛びにフルトラ式にすればいいのではと言わないでくださいね…。互換性といいますか、グレードアップ出来るパターンに決まりがあり、今回対応可能な中ではセミトラが最適であったということです。
ディストリビュータのセミトラ化などの点火系の調整、それからキャブレータの最適化を行い、電気系統をチューニングしていきました。この調整を行った日々は調整しては試し走行を繰り返す地道な作業が続きましたが、回を重ねるごとに数km/hずつ速度が伸び、当初30km/hほどしか出なかったのが約70km/hまで出せるようになりました。キャロル360が登場した当時は、今のように高速道路があちこちに張り巡らされてもおらず、加えて軽自動車なのでそんなに高速で走る馬力は必要なかったのですね。チューニングで、今まで眠っていた現役でも活躍出来る力を引き出しました。
旧車部品各種取り揃え。当店では取付も承ります。こちらはマツダキャロル360のディストリビュータローターの販売ページです。…
旧車部品各種取り揃え。当店では取付も承ります。こちらはマツダキャロル360のディストリビュータキャップの販売ページです。…
ラジエーターのオーバーホール
旧車部品各種取り揃え。当店では取付も承ります。こちらはマツダキャロルのラジエーターのオーバーホールのメニューです。…
外装・内装の補修と防錆
外装のお話なのでちょっと横にそれますが、この型のキャロルは小型ながら鉄板は現行の国産車よりも厚めです。キャロルが厚いというより、現行車が燃費と走行性能を追求した結果どんどん薄くなっていったと言えます。高張力鋼板などは薄さと強度を両立させているとして最近の新車ではよくアピールされますね。
さて、車検を取るにあたって、内部的には修理が必要な部分が多くありましたが、上の写真の通り外側にはサビもほとんど見当たらず、年数に対してとても良好な状態です。きっと保管状態が良かったのでしょう。
その為、車体下部に防錆(アンダーコート)塗装を行った程度で本格的な板金塗装などは行っていません。ただ、車内は少々補修の必要が見られました。
シートの革を張り替えることになったのですが、この時丸ごとシートを取り外し一旦車体の外へ出しました。シートで隠れていた床面には錆が目立っていた為(下の写真)、隙間を埋めるシーリングや耐チッピング塗装を行いました。
耐チッピング塗装もアンダーコートと同様に防錆効果がありますが、アンダーコートは塗膜の弾力や厚みで小石などをはじき、音や傷を防ぐことでサビの発生につなげない性質のものであるのに対して、耐チッピング塗装は衝撃がかかる部分の塗膜が小さく欠け落ちる(チッピング)を抑えることでサビを防止するものです。
シートは全張替です。純正シートカバーはもう生産終了していますから、こちらはシート屋さんに特注で作って頂きました。
国産旧車のタイヤとホイールの仕様
続いてホイールを磨きます。お預かり当初はホイールもサビに侵食されていました。合わせホイールという特殊性の為単純に交換という訳にもいかず、サビを削り落としてからシルバー塗装をかけました。合わせホイールとは文字通り内側と外側二枚のリムを合わせて使う形状のものを指します。写真の二つのリムは左右両輪セットではなく、片輪分のセットということですね。合わせホイールは1950年代くらいから360cc規格の軽自動車で多く用いられました。
中央の周上に開いている穴にボルトを通して合体させます。
タイヤをはめました。キャロル360は頑張れば大人四人で持ち上がってしまうほど車体が小さく、タイヤ径も10インチと小型です。かつての国産車では主流だった10インチですが、現在ほとんど流通がなく、特にスタッドレスは入手困難です。今回はサマータイヤでの対応とし、国産メーカーのものを取付けました。
旧車部品各種取り揃え。当店では取付も承ります。こちらはマツダキャロル360用タイヤの販売ページです。…
ライトの光量不足とリレー回路の追加
整備箇所も残り少なくなってきました。車検を通すにあたりライトは欠かせない項目です。もともと付いていたヘッドライトは車検基準に対して光量不足でしたので新品純正品に交換してみました(これはまだ純正品が流通しています)。
しかし光量が復活しないため、電圧を測ってみると規定の12Vより少なく、途中の配線が痩せてしまっているようでした。年数を経た古い車ほど起こりやすいです。
ライトの交換のみでは対応しきれない為、電気系統からテコ入れすることに。元の配線にリレー回路を追加で作成し、正常な大きさの電圧がライトへかかるよう調整しました。最後に回復した光量と光軸をライトテスターを使い厳密に合わせます。
無事に車検へ
大方の整備が終了しました。
ハンドルまわりではギヤボックスのブーツが切れていたため交換をし、ドアにはウェザーストリップゴムの交換品を取付たらいよいよ車検です。ずっとご心配されていたお客様でしたが、無事車検を通すことができました。整備箇所が多く約一ヵ月ほどお待ち頂きましたが、過去に2年待たされてしまった経験からお客様は大変お喜びのようでした。
また、車検後のことになりますが、追加でヒーターを取り付けてほしいとご依頼がありました。
現行の車にはエアコンは付いていて当たり前なのですが、当時の車には標準で付いていないのが普通でした。ヒーターはここ長野県や東北など、寒冷地用の特別仕様(オプション)だったのですね。寒冷地でなくても真冬に暖気しないで車に乗るのは厳しいものがあります。
ということで、車検も取れたことですし現役の車として活躍できるようにヒーターを設置しました。
今回の記事は以上です。
記事中に登場した交換部品(製作加工代用品)は特設サイトでご注文承り中です!具体的な料金などご確認頂けますので、ご興味のある方はこちらも併せてご覧ください。
ありがとうございました。