ボディーショップ・オギでの旧車の事例をご紹介するページ、今回は【MG MGB Mk1】です。
だいぶ寒くなってきた11月、珍しく英国車が入庫しました。(当店は普段、国産旧車をメインに整備しています)
1965年式 MGB Mk1。イングランドMG社製のオープンカーです。MGBは50万台超の大ヒットとなった車ですが、オリジナルの本国製右ハンドル車は希少になってきているようです。
日本では、ちょうどKPDA型キャロルが登場した頃の車ですね。
KPDA型キャロルはパーツの入手に苦労します(この世にもうないのかも…と思って作るときさえある…)が、MGBの場合は比較的潤沢にパーツがあります。
英国製と同じくらい国産旧車もパーツが入手出来れば、もっと旧車の維持がしやすくなるのに、ですね。
セルモーター交換
今回はセルモーターが不調ということで、その交換のためのご来店でした。
車両についているセルモーターを取り外していきます。
上の写真を見ると分かりますが、取り外したものと新しくつけたもので大きさが違いますね。本来であれば、右側の小ぶりな方がついているはず、しかし、現状では左側の大きなものが装着されていました。
少しの違いに見えますが、このわずかな違いが影響してエンジンの隙間からなかなか出て来ず…!?
ステアリングギヤボックスのラック部分、ステアリングシャフト、その他細かい部品を一旦外し、ようやく外すことが出来ました。
小さい方はエンジンの隙間から、そのまま脱着が可能です。微妙な差ですが、作業時間にすると30分と3時間くらいの違いとなり、名目は同じなのに工賃に差が生まれる理由はこういった部分に潜んでいます。
エンジンの調整
新しいセルモーターを装着しエンジンを始動してみると、何となく、アイドリングや吹け上がりが不安定なような…。
その様子をご覧になっていたお客様も、キャブの調子も見てほしいとご要望でしたので、こちらも点検させて頂くことに。
こちらの車両に装備されているSUツインキャブレターはもともと繊細でバランスのいい調整を必要とし、安定しにくい性格ではありますが、お話を伺うとその他にも原因が隠れていそうでした。
最も疑わしいのは電圧不足。
旧車には起こりがちな電圧ドロップ問題ですね。
キャブの調整も必要ですが、エンジンの燃え方の音で判断する限りでは不着火部分があるので、電気系統の不具合も重点的に点検することにしました。
こちらのMGBは、他店で過去に点火方式をポイント式(当時はポイント式しかない時代でした)からフルトラ式に変えてあり、その際にイグナイターコイルも高性能なもの、プラグやプラグコードも新品に交換してありました。
しかし、コイルとフルトラの回路は古い取付けのまま。テスターで測ってみると、やっぱり9~10Vぐらいしか電圧が来ていません。
これではコイルは”おなかがへって、もっと食べたい”状態です。
部品自体が新しくなっても、電圧が不足していると本末転倒になってしまいます。これは意外とよく見落とされる部分のようです。
そこで新たにリレー回路を追加して、12Vを復活させてみたのですが、これだけでもプラグに十分に火花が飛んでエンジンの始動性が改善されました。
アイドリングも安定し、アクセルを踏み込んだ分だけ高回転までよく反応するようになり、マフラーの排気の音色も「ボコボコボコ…」から「ボボボボボボボボ」と力強く変わりました。
排気の音だけ聞いても、大分違いが感じられ、不着火部分が減少したのが分かります。
セルモーターも相乗効果で、一発でボワンとかかるようになりました。
仕上げとしてコイルに13V強の電圧が安定してかかるよう、リレー回路に加え昇圧装置(イグナイター)も取付け、点火タイミングにも調整を加えました。
旧車のネックはプラグに火花を飛ばす力の弱さですが、これでかなり改善されたかと思います。
この最後の調整時は、データよりも五感が頼りです。
エンジンの始動性、アイドリングの安定性(ブレ具合)、回転の伸び(吹け上がり方)、マフラーの排気音の安定性等、それぞれが調和する点を見出し、なるべく心地良い状態に仕上げます。
お客様に試運転して頂いたところ、「30年ぶりぐらいに本来の調子の良さに戻った」そうです。
バナナオートにご来店されるまでに、何件かのお店で見てもらったそうで、キャブレターの調整はしてもらえたけど、コイルにかかる電圧まで気にしてチェックしては貰えなかったとのことでした。
落とし穴の一つ、なのかも知れません。
ちなみに、エンジンルームなどの配線は触ってみると固くなっている場合が多くあります。これらは電圧がドロップしている可能性がありますので、気にして確かめてみてくださいね。
整備完了
旧車はそれぞれ数が少なく、年数と共に個性が育っていますので、ご入庫のたびに新しい発見があり、常に車から勉強です。
この度は当店に整備をお任せくださり、ありがとうございました。
追記
後日、別のMG車に乗ってお客様がお立ち寄りくださいました!
いつもありがとうございます。